「仔犬/ニーム」(『新潮2010年4月号』)

2010年07月18日 03:23

随分久しぶりのような気がするレビューですが.ちょっとサボってました.

さて,今日はバングラではなく,インドの話ですが,バングラにも共通する部分が多々あるのでレビューしてみました.

雑誌『新潮』が,「アジアに浸る 高樹のぶ子と十の国,十の作家とのコラボレーション」という連載をしているようでその第九回がインドでした.(別の号を読んでいないので,他にどんな国のどんな作家とコラボしたのか分かりませんが)

「仔犬/ニーム」(『新潮』2010年4月号)
「仔犬」 ラージェンドラ・ヤーダヴ,高橋明訳(『新潮2010年4月号』p175-185)
「ニーム」 高木のぶ子(『新潮2010年4月号』p186-192)


内容のごく簡単な粗筋はざっと下に書いておいたので,興味がある方はどうぞ.


私自身は,最後に高樹さんが書いていた文章に最も共感しました.

高樹さんは「インドの問題」が具体化されているという,虐待された女性や子供の収容施設や,代理母の本音に近づく試みや,ヒンドゥー社会の中のムスリムの小さなコミュニティに存在する女性差別や虐待の問題があるという場所を訪れたそうです.

(以下原文)
「けれど正直に言えば、インドについて何一つ解った事は無い。どの立場から見るかによって、インドは全く違う姿、数値データ、心の風景を見せる。それが唯一、確かに手に入れた実感だ。」


これ,正にバングラにも言える事だと思います.他の国でもある程度はそうだとは思いますが,インドやバングラはこのギャップが,余りにも大きいのです.「世界最貧国」という肩書き,サイクロンや洪水といった災害のイメージ,砒素汚染や渋滞のクローズアップ,そしてその一方でNEXT11に数えられる経済成長とガーメント産業の躍進,脚光を浴びるグラミン銀行etc.

見る人の興味・関心がどこにあるか,どんな意識で持ってバングラと相対するか,で持つ印象はガラリと変わります.そして,それらは間違いではないけれど,全てではないのですよね.私もバングラに関して知らないこと,解らないことだらけです.知れば知るほど,解らなくなってくる気がします.ではバングラが好きかと言われても,これまたうーむと考え込んでしまいますし.なかなか底が深いですよ.


もう一つ,納得の言葉がありました.

「行動は思考から生れるのではなく、行動は行動の連続によって続けられていく。なぜなら生活だからだ。」


~以下,「仔犬」と「ニーム」のごく簡単な粗筋~
まずは「仔犬」から.作者のヤーダヴ氏曰く,「インドの問題」の全てが入っている作品だそうです.カーストやジャーティといった階級差別の問題はガンジーが撤廃を試みた頃より悪くなっていると言います.

物語は,主人公が飼っている血統書付きの犬の子供を,近所の女性が欲しいと言い,その話を高カーストの知人サラン・バーブーにしたところ,その人ではなく自分にくれと言います.このサラン・バーブー,典型的なカースト支持論者.カースト差別に疑問を持つ主人公はカースト論議で言い負かされてしまいます.そんな話をしながら二人がお寺の前を通りかかると,布にくるまれた捨て子と,その周りに何人もの人だかりができていました.みな,子供のことは不憫に思うも,ジャーティがわからない子供を誰も引き取ろうとしません.主人公は釈然としないまま,その場を離れ,話は終わります.

犬の貰い手はあっても,人間の子供の貰い手はない,という事態に,この話をテキストとして用いた訳者の生徒(現代日本の学生)は,インドがまず理解できず,驚き,あきれ,そして心から怒りを覚えたそうです.現代バングラデシュはイスラム化が進んでいるため,ここまでカースト(ジャーティ)による差別があからさまではありませんが,それでもやはり明らかな階級が存在します.お金持ちの子供は生まれたときから使用人に囲まれ,彼らを自分と同じ人間とは見ていません.一方で欧米への憧れが強く,自分をよりそちらへ近づけるために英語教育を受け,西洋文化に浸ります.物語中のサラン・バーブーのような思考回路の人も,いるでしょう.産まれたときから体に染み付いている感覚という感じで,根の深い,なかなか簡単には解消しない意識であると,改めて感じます.


「ニーム」は,主人公は友人がインドから帰った時によこした電話で,「インド酔い」と「ニーム」という二つの言葉が土産だと言われます.特に気にも留めていなかった主人公は,数年後にその友人がなくなった後,仕事でインドに来る機会があり,そこで「ニーム」という言葉を思い出します.何時間も田舎道を走った車を降り,取材先であるインド女性の駆け込み寺に辿り着いたとき,施設の外にいた少女に友人に送ってもらった言葉を返すことにした,ニームの大木の下で...

タイトルにニームとつけど,ニームの樹そのものは,それほど大事ではないような話でした.またもや.話もと,ちょっともやっとした感じが残る終わり方をしています.でも,インドにおけるニームの存在感は感じられる気が,,ってちょっと無理やりか.


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