スポンサーサイト

--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

母語の大切さ

2010年08月31日 21:52

もうかなり以前から関心はあったのですが,手に取る機会を逸し続けていたのを,この前カトマンズの友人宅の本棚で発掘し,(ちゃんと友人の許可を得て)ダッカへ持ち帰ったこの本.

『不実な美女か 貞淑な醜女か』
米原万里『不実な美女か 貞淑な醜女か』


非常に興味深い内容で,また挿入されているエピソードがいちいち笑えるので,読み終えてしまうのが勿体無く,毎晩一章ずつと決めて,楽しみに読んでいました.

通訳という職業に興味のある方に限らず,異なる言語とのコミュニケーションを体験した事のあるかたなら面白く読めるのではないでしょうか.特に日本を離れて外国に住んでいる人,身近に外国人の方と接している人は,一読の価値アリです.

特に印象深かったエピソードは,解説の名越氏も挙げられている,旧ソ連シェワルナーゼ外相の辞任表明演説です.この演説でのシェワルナーゼ氏の興奮した様子とたどたどしいロシア語に,グルジア民族の歴史的悲哀を感じ取りながらも,しかし通訳として淡々とした標準語に約し出したというくだりには,著者の通訳としての技量がいやでも分かります.


そして最も共感したのは,最後の第5章3,4,5節に書かれている,母語としての日本語の大切さです.「いい通訳」とは,結局のところ高い日本語能力を持った人であると,一言で表せばそう言われています.


母語を磨くことがいかに大切か.


現在の日本における言語教育は,英語偏重になっていて危ういと,警鐘を鳴らしているのですが,この本が書かれたのはもう10年以上も前のこと.未だに,日本の状況は変わっていないと思います.いやむしろ,悪化しているのか,とさえ思えます.

日本人の盲目的な英語崇拝と,裏を返しての英語が身に付かない英語教育には,何か文科省の作為さえ感じてしまうほどです.国際語としての英語教育を重視するのは結構.でもその前に,日本語(国語)教育をしっかり見直してくださいよ,という事ですね.



このことは,常日頃,私も実感していることです.

英語やその他の外国語が,どんなにできても,結局は言語はコミュニケーションのツールである以上,伝える「中身」が重要なのです.外国語が流暢に話せたとしても,最後は喋っている内容で判断されるのです.そしてその中身は,母語によって構成されていると思うのです.基本となる思考言語.

難解なことを思考するとき,複雑な論理を組み立てるとき,母語である日本語で考えます.日本語で,じっくり物を考え抜くという訓練をしないうちから,英語を詰め込むのはよくないのではないか,というのは,常々思っていたことです.

私の地元の近くに日本でも有数の,日系ブラジル人コミュニティがあるのですが,日系2世3世の両親がブラジルから移住するときに,幼い子どもを連れてくると,その子どもたちはポルトガル語が充分に身についていないうちにこちらへ来てしまうので,ポルトガル語も日本語もきちんと理解できないという問題が発生しているそうです.


この問題,実はバングラでも他人事ではありません.

お金持ちの子どもは,小さい頃からインターナショナル・スクールやイングリッシュ・ミディアムで教育を受けて,家の中でも英語で会話していると,きちんとしたベンガル語ができないまま育つそうです.

バングラデシュは歴史的に英領時代を経ているため,英語が話せることは一種のステイタスであり,出世への足がかりでもありました.今でも,英語のできる人たちは,バングラ人同士でも英語で話したがる傾向にあります.

でも,バングラデシュは世界でも稀有な,言語をアイデンティティの柱として独立した国です.(少数民族の問題はここでは一旦置いておきます)言葉はその民族の文化や歴史的背景を担う表現の手段です.英語ペラペラなのは結構だけど,「ベンガル文化」を支えてきたベンガル語を,知識人こそが大切にしてほしいなあと,遅々としてベンガル語習得の進まない私が勝手に思っているわけです.


という訳で,今回の記事,どのカテゴリーに分類すべきか迷いましたが,あえて「ベンガル語雑記」にしました.


コメント

  1. Yukinco | URL | -

    Re: 母語の大切さ

    米原万里さんの本、好き!勿体ないから、ってすごく分かります。
    通訳をされていた米原さんの言語観は考えさせられます。
    下ネタも笑える。惜しい方を亡くしましたよね。

    高い日本語能力と英語能力を小さい頃に身につける方法があったらいいのになー。と、
    英語を社内共通語にした会社を紹介するニュースを見ながら思ってしまいますi-201

  2. Naoko | URL | -

    > Yukinkoさん

    本当に,あと20年くらいは執筆活動していただきたかったですね.
    言語って,コミュニケーションのツールでありながら,
    それ自体が文化でもありアイデンティティを形成する重要な要素であったり.奥深いですね.

    英語を社内共通語にするのはその会社の方針なのでいいですが,
    もしそれで英語ができないというだけで他の高い能力を持った人が
    埋もれてしまうとしたらそれは何か勿体無い気がします.

コメントの投稿

(コメント編集・削除に必要)
(管理者にだけ表示を許可する)


最新記事


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。